月蝕島の魔物 田中芳樹 理論社

文豪と訪ねるヴィクトリア朝時代の怪奇島

ヴィクトリア朝時代のイギリス。
クリミヤ戦争帰りのニーダムは仕事で知り合った文豪ディケンズ、童話作家アンデルセン、姪のメイプルと共に、氷山に閉じ込められた帆船の手がかりを得るため不吉な噂に満ちた月蝕島を目指す。そこで彼らが見たものは......。

参考資料に裏打ちされた揺るぎない時代描写

ビクトリア時代のイギリスを詳細に描写し、物語のリアリティーを高めている点がこの物語の特徴です。
ライトノベルではダイアローグと主人公のモノローグで物語が進むことが多いのですが、この物語では時代解説と人物描写で物語が進行していきます。特に時代解説は秀逸で、ビクトリア時代の空気まで読んでいる読者に伝わってきそうです。

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話の脇を固める偉人たち

この作品には歴史上の有名人が多数出てきます。
ディケンズ、アンデルセンといった主要な登場人物から、ウィルキー・コリンズ、スペインの無敵艦隊、ナイチンゲールなど巻末に関係年表と参考資料を合わせて12ページも掲載しただけあり、歴史上の著名人が綺羅星のごとく登場し物語の脇を固めます。
著者があとがきで、物語中で解説した事件、登場する人物が気になったら自分で調べてみてくださいと挑発(もしくは誘惑)するほどです。(笑

老いた主人公による回想形式

物語の主人公は田中芳樹先生の十八番である「穏やかな性格だがやる時はやる主人公」と「明るくしっかり者で、勝ち気で聡明な十代のヒロイン」の二人。
その二人の主人公を、歴史上実際に起こった事件や時代を代表する偉人たちが支えるのですから面白くない訳がありません。ジャンルとしてはホラーですがホラーな部分は最後のちょっとだけ。
ヴィクトリア朝時代のディテールが事細かく描写された本作はホラー好き以外の人も楽しめる優れたエンターテイメント作品に仕上がっています。

絶頂期のイギリスを楽しむ

この物語は、十代の学生を主な読者対象にすえて書かれています。(十歳から八十歳の幅広い年齢の方々にも楽しめる内容であることは私が保証します)
なぜ、歴史上の事件や歴史上の有名人が詳細に解説されているのか。なぜ、物語が主人公エドモンド・ニーダムの回想として語られているのか。その辺りに著者の意図があるように感じました。私の深読みかもしれませんがキーワードは『大人』でしょうか。
田中先生のファンの方はもちろん、最近のライトノベルに食傷気味という人にお勧めの本です。

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