ライティングデスクの向こう側 朝倉卓也 宝島社

作者は机の向こうに夢を見るか?

書く事に行き詰まりを感じている同人作家の人たちに、文章編・構成編・実践編の三つのセクションに渡り「何を書くか」ではなく「どう書くか」という部分に特化して解説した本です。

その文章の語り手は誰か?

まさかとは思いますが、一人称の語り手が「私」もしくは「俺」だと思っている人はいませんよね?
あなたは常日頃から、階段を上りながら頭の中で『一分一秒を惜しんだ私は3段飛ばして階段を駆け上がった』と、誰でもない誰かに語りかけますか? しませんよね。ましてや、誰でもない誰かに向かって、自分の心境を細々と説明したりしませんよね?

では、ストーリーと語るのは誰でしょうか?
著者は三人称、一人称、偽一人称、二人称という『語り手』の解説から小説を執筆する技術的な課題について解説します。

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小説にできてコミックや映画にできないこと

この本を高く評価するのは、小説を執筆しながら悩んでいた命題に解決の糸口を与えてくれたからです。小説に代表される文字情報の創作は、コミックや映画に代表されるビジュアル情報の創作に大きく水をあけられているのではないか? 小説は他のメディアと比べて劣っているのではないかという疑問です。

著者はコミックや映画と比べて小説には心理描写と比喩にアドヴァンテージがあると力説します。視点が多ければ、それだけ読み手の感情移入は浅くなると喝破するのです。

詳細な説明は時に読み手を飽きさせる

著者のこの主張は、詳細な会話は読み手の注意力を散漫にすると言い換えることができます。リズミカルな文章を書くうえで、何を省略して何を詳細に描写・説明するか。巧みな比喩と言葉が持つイメージを意識して書く事が必要と説きます。

小説などの描写でも注意すべき点があります。それはリアル優先の描写か、イメージ先行の描写かという点です。特に光や音や色味といった自然現象を描写する際には注意が必要です。

デフォルメされたマンガやアニメの影響からか、現実ではあり得ない自然描写を見かけることがあります。イメージ先行の描写が悪いとは思いませんが一度そんな現象が起こりえるかどうか考えてみるのも、作品に一つの視座を持ち込むことになり作品の質を高めることになると思います。

物語は何のためにあるか?

著者は物語は終わるためにある、と断言します。物語をどのように終わらせるか、物語の構成の設計図であるプロットについて著者は解説します。

情報開示、基本の構成、時間に関する技法、人物設定、書き出し、話者の工夫、ガジェットとモチーフ、細部とリアリティー、行間のゲシュタルトについて、著者の考えを提示します。特に、登場人物が書き手の予想を超えて動き出す現象は作者の意識化の推進力が起こす現象であると論じています。勝手に動き回る登場人物を制肘するのではなく、むしろ登場人物と作者とのあいだのギャップを探究することが物語を豊かにすると説きます。

登場人物はなぜ、自分の考えたとおりではなく勝手に動き回るのか。どうして、そのような行動を取るのか。

小説家を目指す上で必要なこと

実践編では小説家をを目指す上で必要ないくつかの事柄(執筆枚数・再投稿・誤字脱字・タイポグラフィー)を、著者の体験から解説します。特に再投稿について解説した本はごく少ないので、一読の価値はあります。実践編の後半では、未発表の作品の第一稿を教材に著者は小説の推敲について解説します。自分の、しかも未発表の作品の第一稿を教材にすることに驚きました。

多くの小説や創作物についてジャンルを問わず言及しているこの本は、執筆のイロハを教授するハウツー本としてだけではなく創作の手本となる本を紹介した創作者の力になってくれる本です。

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