ゴルフ場は自然がいっぱい 田中淳夫 ちくま書房

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ゴルフ場は現代の里山?

自然破壊の代表としてあげられるゴルフ場について、その日本での歴史とゴルフ場を取り巻く社会の変移について解説し、ゴルフ場が自然環境の維持と人々健康に良い影響を与える可能性を探った本。

ゴルフ場の真の姿とは

ゴルフ場というと、造成による自然破壊や使われる農薬による環境汚染を連想する日本人が多いかもしれない。
しかし、実態はそうではないと著者は少ない資料を元に説く。なぜ、資料が少ないかといえば、大学などの研究機関によるゴルフ場が与える様々な影響についての研究が少ないからだ。

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ゴルフ場と里山の共通点

その数少ない研究結果は、どれもゴルフ場が生物多様性にとって良い影響をもたらしていることを証明している。
それなぜか? それは人の手で維持管理されているからだ。もともと生物多様性の揺り籠といわれる里山にしても、人の手により維持管理されて初めて里山たり得ている。まったくの手つかずの自然ではない。

ゴルフ場の自然環境

逆に人の手が行き届いていても、杉や檜が一面に植樹された山では環境が画一的なため生物多様性が乏しい。
では、ゴルフ場はどうか? フェアウェイの芝ばかり目を引くが、ゴルフ場は意外にも色の濃さの違う緑にあふれている。フェアウェイ、バンカー、ラフ、池、コースに植えられた広葉樹、コースの周囲に植えられた雑木林......。多様な植生が人の手によって管理維持されることで、生物の多様性を育む場所。それがゴルフ場の本当の姿なのだ。

利用されなくなった里山

ただ、その多様性も里山ほどではない。なぜなら、今のゴルフ場の元となったのはスコットランドの自然であり、高温多湿の日本とは自然環境がまるきり違うためだ。
しかし、利用されなくなり人の手が入らなくなった里山は次第に荒廃し生物多様性の維持が出来なくなっていく。植えられた広葉樹が薪として利用されなくなり、里山の環境が循環しなくなるためだ。人の手が入らなくなった里山と常に人の手で更新されるゴルフ場。どちらが生物多様性に富んでいるか、比較して見るのも面白いかもしれない。

ゴルフ場と農薬

ゴルフ場の元となったスコットランドとの違いから、日本にゴルフ場が作られたばかりのころは農薬を大量に使って芝を管理していたこともあった。病気になっては元も子もないと、予防的に農薬が散布されていたようだ。
しかしその後、日本各地でゴルフ場造成反対の市民運動が起こり乱開発や農薬の過剰散布が問題視されると法律が整備され、元の地形を生かしたコース設計や農薬の使用を極限まで抑えたコース管理など、環境影響度の改善が進んでいく。

ゴルフ場と自然破壊

さらに研究が進んだ今では、ゴルフ場の仕組み上農薬の有害成分が地下水に流れ込むことは少ないことが研究結果により明らかになっている。農薬の有害成分は、地下水脈にたどり着く前に植物の根や堆積した土壌によって吸収・分解されてしまうからだ。
また、造成段階での自然破壊についても、耕作放棄地を選んで雑木林を積極的に残したり元々の高低差を利用したコース作りをしたりと、自然破壊を最小限にとどめる工夫がされている。

ゴルフ場にかける市町村の期待

ゴルフ場はブーム絶頂期だったバブル期以後も造成されている。柱となる産業のない山間部の市町村にとってゴルフ場がもたらす富はノドから手が出るほど欲しい。直接的な税収が増えるだけでなく、ゴルフ場は新しい働き口にもなるからだ。また、ゴルフ場を訪れる人が増えることで町が活気づくという一面もある。
市町村にとっては、悪い話が一つもないのがゴルフ場開発なのだ。

法律とゴルフ場利用税

バブル崩壊後も新しいゴルフ場が作られ続けたが、これには少し理由があった。ゴルフ場を作る場合、計画から市町村への嘆願、造成工事をして実際に利益が出るようになるまでには最低十五年はかかるといわれている。とにかく着工前の手続きに時間がかかる。つまり費用が発生する。ゴルフ場を作る企業も、会員権という形でお金を集めている以上そう簡単には止められない。また、造成工事中に中断されることを嫌った市町村の強い要望もあるとかないとか。

ゴルフ場利用者の減少

もちろん、地元の期待とは裏腹に会社として維持が出来なくなって解散したゴルフ場もある。ゴルフはお金がかかるスポーツだし、競技人口の減少の影響もあっただろう。余談だがバブルのころは、意図的にラフやバンカーなどを減らしプレイヤーの成績を上げやすくしてまで規約を集めようとするゴルフ場もあったとか。
しかし、それでもここ十年、ゴルフ人口は減り続けている。ゴルフトーナメントの数も減り賞金の金額も減っている。

ゴルフは今でも金持ちの道楽

ゴルフ人口が減った、もしくはゴルフ場を利用する人が減ったの理由は様々だ。ここ十年の世界的な景気後退のため、スポンサーとなる企業の撤退・縮小が相次いだこと。ゴルフ道具一式をそろえるには少なくない投資が必要なこと。ゴルフ会員権も値が下がったとはいえ安くはないこと。ゴルフ練習場に通うだけなら金額的負担は軽いが、練習場に通うだけではモチベーションが維持できず長続きしないこと。

ゴルフは楽しいスポーツか

ゴルフの一ラウンド(十八ホール)にかかる時間は約五時間。ゴルフ場までの交通の便が悪い(交通の便が良いゴルフ場の会員権は総じて高い)ため、利用者の多くが早朝に出発して夕方に帰宅するなど一プレイかかる拘束時間が長い。また、日本ではスポーツとして楽しむ人よりも、仕事先との付き合いの一環としてのゴルフ(いわゆる接待ゴルフ)が大半のためゴルフ=楽しむというイメージが根付かなかった。ゴルフについてプラスのイメージといったら、石川遼ぐらいか。

ゴルフを取り巻くデフレスパイラル

ただ、ゴルフ人口の減少はゴルフ場を経営する会社だけでなく、ゴルフ愛好家やゴルフ場がある市町村にも悪い影響を与える。
具体的には、ゴルフを楽しむ人が少なくなれば、ゴルフ場を運営する会社の収益を圧迫する。ゴルフ場運営会社が倒産しゴルフ場が少なくなれば、ゴルフ愛好家のゴルフ場への足も遠のく。ゴルフ場の利用者が減れば、ゴルフ場がある市町村への税収額も減る。ちなみにゴルフ場利用税はゴルフ練習場にはかからない。

ゴルフ場の新たな活用法

そこで著者は一つの提案をする。ゴルフ場をゴルフをするだけの場所にとどめず、もっと違う楽しみを見つける場所としてはどうか、と。
ゴルフ場を健康促進の場として活用しようというのだ。具体的には、ゴルフ場や周囲の雑木林を散歩する「森林浴」だ。
ゴルフ場のフェアウェイを歩くのが難しければ、ゴルフ場のホールの外周を歩けないか。都会の公園もムクドリやヒヨドリなどの野鳥が多いが、木々が連綿と並ぶゴルフ場では、都会とは違った鳥が楽しめるはずだ。フィトンチッドをたっぷり含んだ空気を吸いながら、鳥の鳴き声を背景に高低差のあるホール外周を歩く。いいね。

ゴルフを日本に根付かせるために

現状、日本でゴルフ場を利用するには、まだまだ敷居が高い。ゴルフ会員権の価格も手頃とはいえないし、ゴルフ場までの交通の便も良くはない。(海水浴場の近くには民宿があるのにゴルフ場の周囲に民宿などの宿泊施設がないのはなぜだろう)
せっかくあるゴルフ場という自然をもっと活用してはどうか。人の手を離れ腐ってしまった里山や、放置されて荒れ放題の田畑をゴルフ場やプチゴルフ場にして人々の健康に役立ててはどうか。著者はゴルフ場が持つ可能性に注目して力説する。

自然の前に人は同じ

ちなみに著者はゴルフを一度もしたことがない、ゴルフと無縁の人生を送ってきた。今後もゴルフをプレーする気はないとのこと。
ゴルフ擁護ではない、著者の視点はまさに目からウロコの面白さでした。

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