大人の樹木学 石井誠治 洋泉社

リンゴとミカンの実の違い

考えてみると当たり前の樹木に関する基本的な知識を、楽しく読み進められるように簡単なことから分かりやすく実践を踏まえて解説した本。

木はなぜ落葉するのか?

なぜ落葉する木と落葉しない木があるのか。どのような仕組みで、なんの必然性があって落葉するのか、整然と答えられる人は少ないと思います。
では、落葉する木と落葉しない木ではどちらが寒さに強いと思いますか? 

針葉樹は落葉しない。だから落葉しない木のほうが寒さに強いのではないか? そう考えがちですが、実は落葉する木の方が寒さに強いのです。
植物の葉は寒さや乾燥に弱いため、寒さや乾燥から樹木を守ろうとするなら、いっそのこと葉を落としたほうが樹木にとっては都合が良いのだとか。ちなみに常緑樹は葉を厚くすることで寒さや乾燥に対抗しています。

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ではなぜ、すべての木は落葉しないのか?

乾燥や寒さに強い落葉樹にも欠点というか、落葉性であるが故の宿命があります。それは、新しい葉を茂らすために春先に常緑樹よりエネルギーを大量に消費することです。そのエネルギーの一部は根を通して分解された落ち葉から得ています。

ん? 公園の落ち葉をかき集めて清掃車に乗せ、ゴミとして処分されてしまうのは落葉樹にとって痛恨の極みなのでは?
木が弱らないように春先に人の手で肥料でもまいているのでしょうか?

孤独な樹木はいない

街路樹や公園の木は一定の大きさより大きくならないよう人の手で管理されています。この本には書いていませんが、プラタナスの木の枝を夏のうちに切り落とすのは必要以上に大きくならないためなのでしょう。(秋、葉が落ちる前に銀杏の木を切ってしまうのは車のスリップ防止が理由というのを聞いたことがあります)

木の高さは、木の種類にもよりますが木が生えている場所の風の強さが重要です。世界一の高さを誇るセコイアメスギの生育場所は強い風が吹きません。
また、木は周りの木や草と共生しています。人の手を加えない自然の環境では、孤立した大木は存在しないのです。

高尾山のブナは絶滅する運命

かといって、針葉樹も広葉樹も、どこでも生育できる訳ではありません。風が強い場所、山などの高地、湿地など水気の多い場所や逆に水気のない砂漠では木は成長できません。よくブナ林が土壌の水を保持する役目を負っているといわれますが、実はブナ林が水を保持している訳ではありません。水気の多い土壌でなければブナが育たないだけです。もちろん、根が土壌を支える役目をしているのは確かですが、水気の多い場所を選んでブナが生育しているだけなのです。

また、ブナが子孫を残すには特別な冬が必要不可欠です。高尾山はブナが子孫を残せる環境になく、今生えている木が年老いて枯れてしまえば高尾山のブナ林は消えてしまうそうです。

菌根類と地下水

木の高さを決める要素の一つが風とするなら、木の寿命を決める要素の一つが土です。
根が元気であればあるほど木は活発に生育することができます。根が元気になるにはどれだけ土から水と養分を吸収できるかによります。
そこで重要なのが土に含まれる空気の量と根の周りの菌根類です。

樹木はその場所から動けません。ですが、必要なものが必ず根の周りにあるとは限りません。足りなければ補い、多ければ排出しなければなりません。地下でそういった調整をしているのが菌根類とよばれるもので、キノコをふくむ菌根類と樹木は地下では共生関係にあるのだとか。
木と共生関係にある菌根類としてメジャーなキノコが松茸であり、赤松と共生関係にある松茸の養殖の難しさは世間に知られるところです。ちなみに、私たちが普段食べているキノコは有機物分解キノコと呼ばれるものが一般的だそうです。

樹木を愛でる 実践編

身の回りにある樹木を観察することを著者は勧めます。家の近所、通勤通学の途中、職場や学校や公園などに生えている木を観察することは、とても楽しいことである、と。
たとえば街路樹。街路樹になる木は過酷な環境にも耐えられる木が望ましい。剪定に強く、乾燥に耐え、成長が遅く、落葉樹であること。そして何より、管理がしやすい木が環境事業所に好まれます。車の排気ガスをもろに浴び、毎年枝を切り取られ、実をつけず、少ない土でも生育する木であること。

このすべての条件を満たす樹木はトウカエデぐらいだそうですが、街中でよく見かける木としては銀杏とプラタナスが双璧ではないでしょうか。ただ、この二種は生命力が旺盛で成長も早いのが難点。ソメイヨシノは川辺や学校に、ケヤキや楠は公園に生えている印象があります。

バナナの木も挿し木で増やす

公園や家の庭先では園芸種の木を見かけのことがあります。園芸種の木として代表的な木は桜の一種であるソメイヨシノ。
園芸種の特徴は親木のクローンであることで、これは園芸種は種からではなく接ぎ木で増えるためです。キンモクセイやギンモクセイは雌雄異株ですが、ソメイヨシノと同じように接ぎ木で増やします。雌株と雄株で花の香りの強さが違うからです。ちなみに香りが強いのが雄です。

オオムラサキツツジの赤紫の花は大輪で見栄えも良く、花持ちがいいので庭や公園の生け垣に植えられています。花が咲いた後の枝を切り挿し木にするだけで簡単に増やせるため、園芸業者に好まれたのもオオムラサキツツジをよく街角で見かける理由の一つでしょう。

公園や神社に足を運ぶことから

この本を読んで樹木の生態に興味がわいたら、まずは公園や神社に足を運んでみてはいかがでしょう。
私的には特徴的な外見の木から覚えるのがお勧めです。公園なら桜、楠、ケヤキ、ユリノキ。街路樹なら銀杏、トウカエデ、プラタナス(モミジバスズカケノキ)にナンキンハゼ、サルスベリにハナミズキなどが分かりやすいかと思います。
そうそう、公園や神社に足を運ぶ前に持ち歩けるタイプの樹木の図鑑を一冊購入すること。持ち歩かなくても、落ちている葉を拾ってきたり樹形や花の形から品種を同定することができるからです。

街を歩いていてふと、名前を知っている街路樹に気づくだけでも案外楽しいものですよ。

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