コラムばか一代産経抄の35年 石井英夫 扶桑社

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美味しい毒あります

産経新聞の一面コラム「産経抄」を三十五年ものあいだ書き続けた著者による、コラムニスト石井英夫の三十五年ぶんの私的回想録。

本から本への渡り読み

この本を手にとったのは、以前ブックレポートで和田秀樹さんの「国語力が急上昇する聞き書きトレーニング」を紹介した際、ディクテーションの例文として石井英夫さんのコラムが紹介されていたことがきっかけでした。石井さんが書くコラムの内容は産経新聞らしくて実に私好みなのですが、右か左かはさておいて、身辺雑記や交友録について書かれたコラム一つ取り上げても石井さんの文章は読みだすと止まらなくなる不思議な力がある。

石井さんの文章を食べ物に例えるなら、フグの刺身を連想してもらうと分かりやすいかもしれない。

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名文=フグの刺身=石井英夫のコラム

大皿に盛られたフグの刺身はあいにく食べたことがないが、フグの刺身なら三度食べたことがある。蛋白でクセがなく、独特の歯ごたえがあり、白身の見た目もあって特に食欲をそそるものではなかった。
それでいて機会があればまた食べたいと思うのはなぜか。どこの誰かの説明によると、また食べたくなる理由はフグの刺身にわずかに残るフグ毒のせいらしい。

舌のシビレも味のうち

その説明によると、フグ刺しをつくるとき、心得た料理人はわざと刺身にフグ毒の残すのだそうだ。もちろん、大皿いっぱい食べたところで中毒にならない絶妙のさじ加減だそうなのだが、他の料理では絶対に味わえない舌のシビレを人はフグ独特の味と錯覚し、その味の虜になるのだという。文字通りフグ刺し中毒にかかるわけだ。
本当かウソかは不明だが、もっともらしい話ではある。

耳かき一杯分の毒を込めて

この本の著者である石井さんも文章に混ぜる「毒」のさじ加減が実に巧みだ。「耳かき一杯分の毒」とは石井さんの弁だが、コラムの読み手はその毒に気づかないうちにシビレてしまい、石井さんの文章の虜になってしまう。私もページを繰る指が進み、気づいたら一気に巻末まで読み終えてました。本の内容は著者の身近な人との回想録なんですけどね。
ただ、最期まで読むと、この人の文章が「毒」だけではないことに気づく。

包丁は料理人の命

フグに限らず刺身というものは包丁を引いて切るもので、力任せに切れば刺身の身が潰れてしまい歯ごたえばかりか見た目まで悪くなる。
文章も同じだ。コラムっぽく「物事への切り口」といったほうがいいかもしれない。実際にあった事件や事故にたいして、どの位置からどのように切り込んで、どう判断し何を論評するのか。
その論表を読めば、切り口が分かる。石井さんの文章の切り口は迷いがなく真っ直ぐで綺麗なまま。

包丁一本新聞紙に巻いて

だから、突っかかることなく読める。読み応えもあって、それでいて喉ごしもいい。
そう、石井英夫さんの文章は味だけではない。食感も実に素晴らしいのだ。
腕の良い職人、コラムニスト石井英夫さんの文章をぜひ味わってみてください。

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