日本語力がつく漢詩一〇〇篇 守屋洋 角川マガジンズ

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勿謂今日不学而有来日

平安時代から明治時代まで日本の教養の根幹であり、多くの文人が表現力を高める源とした数々の漢詩から、これだけは知っておきたい中国の詩九十篇、日本の漢詩十篇を厳選した本。

勿謂今年不学而有来年

著者は国民の教養に欠かせないものとして短歌や俳句を上げ、短歌や俳句を義務教育の段階で暗記させることを 強く勧める。そして、短歌や俳句と同じように漢詩を暗記することが教養を深めるうえで有効であると説く。なぜなら、短歌や俳句の詠み手には必ず漢詩に対す る深い理解があるからだ。

「歳歳年年人同じからず」
「春眠暁を覚えず」
「春宵一刻値千金」

日本語に深く根ざした漢詩に親しむことは、日本人としての情感を豊かにする。著者はそう述べている。

 

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日月逝矣歳不延我

一〇〇篇の漢詩を読んで気づいたのは、短歌との違いです。漢詩は唐代に隆盛を極めましたが、漢詩の詠み手は士大夫と呼ばれる科挙に合格して官僚としての出世を夢見た人でした。

漢詩の作者はいわばエリート中のエリート。そのため、漢詩の内容は夢や出世、左遷や隠遁、大切な人との別離や人生の儚さを詩にしたものが多い。また、詠み手の多くが官僚(元官僚も含む)ということもあるのか、詩の内容も政治色が強い印象を受けました。蘇東坡さん......(涙
あと、酒について読んだ詩が多いのも漢詩の特徴かもしれない。李白さん、飲み過ぎです。長すぎです。それから、天子が呼んでますよ?

一方、短歌は貴族階級の文学であり、古今和歌集を編集する際、紀貫之が収集した短歌を前に頭を抱えたというエピソードがあるほど、和歌は男女の恋愛を詠んだものが多い。もちろん、人生の儚さや虚しさを詠んだ歌もあるが、やはり圧倒的に多いのは恋愛の歌だ。この違いは国土の違い、政治制度の違い、階級の違い、一体何から来るのだろうか。

別の本に、漢詩は『士大夫の志』を詠んだ詩であるという解釈があったが、この本の一〇〇篇の漢詩を読んで強く納得した。和歌が恋に焦がれる女性向けの詩なら、漢詩は立身出世を望む男性向けの詩なのかもしれない。百人一首のアニメがあるのなら、漢詩の足跡を追ったアニメがあっても面白いかも?

鳴呼老矣是誰之愆

ただ、和歌や俳句と比べると漢詩はスッと胸に染み入ってこない。個人的に共感しづらいところがあるのも確かです。
正直、情景を想像しづらいんですよ。空と地平が交わる風景とか。日本だと山の稜線と空が交わる程度じゃないですか。それに距離も日本とは比べ物にならないほど遠い。左遷される先が太宰府どころじゃない。海南島って、スケールが大きすぎて実感わきませんって、日本人には。

まあ、それでも気に入った漢詩は二十を超えたんですけどね。個人的には李白より杜甫、白楽天より杜牧やの方が好みかな。

大切なことを忘れていました。この本は漢詩の解説はありません。『はじめに』で著者の思うところを短く述べるだけです。それと、一〇〇ある漢詩の簡単な解説と現代語訳が少し。それだけです。専門的な話、例えば響きとしての漢詩を楽しむなら、当時の中国語の発音に留意するべきであるといった論理には触れていません。

漢詩を学べば日本語力がつくというより、日本語のみならず漢詩まで自家薬籠中(この成語も中国の故事からでしたね)のものにした人の書いた文章が素晴らしかったということでしょう。漢詩を素読する=日本語力向上には異を唱えます。
でも、漢詩と日本文化・日本文学の関わりについて解説した本があればぜひ読んでみたいですね。

ある本で、森繁久彌さんが最近の役者は漢詩を学ぶぺきだと仰っていたことを今更ながら思い出しました。
......続けてみようかな、漢詩。

余談

漢詩に興味が湧いたので、NHKエンタープライズ が販売する漢詩紀行のDVDを見ました。良かったです。ナレーションと朗読を担当した江守徹の声の響きは流石の一言で、ちょっとした解説がつくのもわかり易かったです。
すでに深く漢詩に魅入られている人は、漢詩の全国組織があるようなので入会してみるもの一興かと。リンク先は全日本漢詩連盟のHPへのリンクになります。

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