人前で話す基本 杉澤陽太郎 祥伝社

個性は「ことば」から生まれる

日本人に欠けているパブリックスピーキング能力について解説した本。他者に情報を伝える能力=パブリックスピーキング能力が日本で軽視されてきた歴史的背景と、言文一致運動後も残る現代口語文の問題点について言及しています。

「ことば」を持たない人に発想力はない

理想とされる現代口語文が日本語のイントネーションに合いにくい理由として、音の高低が意 味の決め手となる日本語の特徴を著者はあげます。欧米の言葉にはない終助詞「ね・さ・よ」のリズム感が話し言葉には重要なのに、現代口語文は論理的である ことを優先して終助詞を排除してきました。結果、リズム=息づかいが乱れ、理想とする現代口語文に人は違和感を覚えるのです。
若者言葉として定着した「みたいな」や「とか」といった曖昧な言葉遣いも、口語文としてのリズムを整える一面があるのだそうです。

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口語の呪文はパラピリプルペレポロ

パブリックスピーキングついて触れている箇所を箇条書きにすれば

  • 他者意識・何のために・下書きを作るな
  • センテンスは短く
  • 全体と部分の関係
  • まず結論を
  • 事実と意見を分ける
  • 良き書き文章は悪しき話し言葉
  • ジョークやユーモアが言葉世界の潤滑油
  • 大和言葉を見直す
  • 吐く息、吸う息が話し言葉をつくる

となり、内容的には類書と大きく違う点はありません。考えさせられたのが、良き書き文章は悪しき話し言葉という見出し。では、良き話し言葉は悪しき書き文章なのでしょうか。そんなことはありません。良き話し言葉を文章にした場合、おそらくその文体には書き手の息づかいが反映されているはずです。(ただし、良き話し言葉が論理的であるという前提です)

つまり、文章にリズムがある。リズムがある文章、生き生きとした文章が読みにくいはずがありません。ただ、推敲を重ねていくうちに切り貼りされた文章は命であるリズムを失い、結果、悪しき書き言葉になってしまうのだと思います。
個人的に反省したい点です。

誰かが日本語が乱れていると言うとき

日本語が乱れているというとき、その人は何と比較して乱れていると感じているのでしょうか。それはその人自身の言葉です。
自分の中の言葉と世の中の言葉にズレを感じたその人の心に広がった不安が怒りに転じているのだそうです。
鋭いツッコミですね。

余談

著者の杉澤陽太郎さんは昭和二十九年(1954年)NHKに入局し、現在はNHK日本語センターに在籍している方です。本の中でも出てきますが有名な松平定知さんの先輩に当たり、そのためか、以前に読んだ吉田たかよしさんの『「分かりやすい話し方」の技術』に通ずるアナウンサー論も載っています。技術の継承という縦のつながりを知ることは、読書人としてとても楽しい瞬間だとつくづく感じました。

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