危ういハイテク機とLCCの真実 杉江 弘 扶桑社

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メーデー! メーデー!

飛行時間2万1000時間の元JAL(日本航空)の機長が、ハイテク航空機の問題点とLCC(格安航空会社)の課題について語った本。

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グレック・フェイスが分かる人

ハイテク機が世界の空で就航するようになっても、ヒューマンエラーによる事故が絶えない理由と改善案を提案します。
以前の航空事故は機器の限界や機械の故障を原因とした事故が大半だった。たとえば、突発的な下降気流であるウインドシェアーや飛行機の現在位置を示す機械の故障などがそれに当たる。
その後、コンピューター制御のハイテク機が導入されて事故の数そのものは減ったかもしれない。しかし、事故のうちヒューマンエラーを原因とする事故の割合はむしろ増えていることに著者は警鐘を鳴らす。

ヒューマンエラーを原因とした事故が絶えな歩原因として

  • 人間工学や使う側の事情を無視したコックピット設計。
  • 失速からの回復といった「緊急時の操縦方法」についての訓練時間が減っていること。
  • コックピット内のパイロットの人数を三人から二人に減らしたこと。
  • 間違った安全対策を現場に強制していること
  • 労働環境の改悪によるパイロットプロ意識の低下と操縦時の集中力の低下。

などをあげ、実際の事故を例にハイテク機でパイロットが陥りやすいミスをJAL元機長の目線から解説します。

パイロットとコックピット

今の航空機のコックピットはグラスコックピットといって、各種情報の表示切り替えボタンと複数のディスプレイで構成される。各種情報の表示方法も時計のような短針長針を使ったアナログ表示ではなく、0から9までの数字を並べたデジタル表示である。

そのため必要な情報を得るためには表示切り替えボタンを操作し、表示された数字を読み取らなければならない。アナログ表示と比べてデジタル表示は、パニック時に操作を強いる点と可読性が大きく劣る点を問題としてあげている。一目で大まかな数値が分かるのがアナログ表示の良い点であり、何より迅速な行動が求められる緊急時にはアナログ表示の可読性がトラブル回避の一助となる。

姿勢指示器はどこにある?

また、操縦するパイロット側の心理を設計側がまったく考慮していない点もヒューマンエラーを誘発していると指摘する。
航空機を設計する人間と航空機を操縦する人間で意思の疎通がない。航空機メーカーが航空機の設計に反映させるため、パイロットに聞き取り調査を行った事例を聞いたことがないと著者は述懐する。

機体を製造する航空機メーカーは数社しかないが、航空会社は数多くある。パイロットとの意思疎通を航空機メーカー任せにするのは現実問題として難しいのかもしれない。しかし、設計にパイロット側の心理が反映されていたら事故には至らなかった航空事故も実際には起こっている。

ハイテク機におけるパイロットの役目

ハイテク機といっても様々な機体がある。ボーイング社とエアバス社では操縦理念から違うし、同じ会社でも、それぞれの機種ごとにボタンやスイッチの操作などが細かく違ってくる。そのため、ハイテク機の機種転換に時間が割かれる一方、緊急時の操縦方法の訓練時間が昔と比べて減ってきている。
緊急時の操縦方法の訓練時間が減ったことによる、実際の事故の例として著者は「エールフランス447便墜落事故」をあげる。

エールフランス447便墜落事故(大西洋)

事故の詳細はこの本やWikiや「メーデー 航空機事故の真実と真相」にゆずるが、原因の一つとして操縦士の緊急時の不適切な対応がある。
この事故の場合、オートパイロットが切れた後コックピットに失速警報が鳴ると、操縦を担当していたパイロットはエンジンの出力を上げた。が、それと合わせて操縦桿を手前に引き続ける。航空機の構造として、エンジンの出力を上げ速度を上げても、機首が上がり続ければ翼は揚力を作り出せなくなり失速する。

そのことは、パイロットなら誰でも知っている事実だ。では、なぜ操縦を担当したパイロット、およびコックピットにいたパイロットはそれをしなかったのか?

原因も分からぬ失速警報にパイロットがパニックになっていたということが一つ。
さらに問題なのが、パイロットが飛行機の姿勢を安定させることではなく、コンピューターの警報を止めることを優先したからと著者は指摘する。ハイテク航空機に限らず、飛行機にはきちんと操縦マニュアルというものがあって、非常時や緊急時にはその通りに操作することが求められる。

最近のハイテク航空機は、コンピューターに警告されたらエラーを消す手順を踏むことをマニュアルで指示している。複数のエラーが出た場合は、エラー一覧の一番上から警告を止めるための手順を踏むことになる。パイロットたちはそのマニュアルに沿って作業をし、いっこうに止まらない失速警報にパニックになってしまった。飛行機の姿勢にまったく頭が回らなかったのだ。

三の二乗と二の二乗

ハイテク航空機の登場前後から、コックピットのパイロットの数は航空機関士を含めた三名から機長と副操縦士の二名となった。
このことは実際に航空機を運航する航空会社に喜ばれた。パイロットの省力化は人件費の軽減に、コストの削減につながるからだ。しかし、コックピットにつめるパイロット三名から二名になったことは、非常時での対応力の低下となって現れる。ハイテク機といえど、非常時にはそのハイテク機能は役に立たないことが多く、事態の改善には単純にマンパワーが要求されるからだ。

たまたまパイロットの資格を持つ者が飛行機に同乗していた、または監督役もくしはオブザーバーとしてコックピットにパイロットが座っていたことで、事故後の対応がスムーズに進み、結果被害が小さくなった例は数多い。もちろん事態の解決には、パイロットたちの能力や経験、パイロット同士の連携が良ければ、という条件はある。

CRMの問題点

では、事態解決のためにパイロットたちの能力や経験を活用するためにはどうすればいいか? 非常時にパイロット同士の連携をよくするにはどうすればいいか?
そこでアメリカで考え出されたのがCRM(コックピット・リソース・マネージメント)です。

これはやがてコックピットがクルーへと変化し、今ではクルー・リソース・マネージメントとなりますが、基本的な考え方は変わりません。CRMの目的は、互いのコミュニケーションを密にすることで情報を共有し、眼前の事態への解決を図りましょうということ。

大韓航空8509便墜落事故(イギリス)

たしかに、副操縦士が事態に気づいておきながら機長への進言が出来なかったために起きた事故もあります。CRMが大韓航空で積極的に行われていれば、この事故は防げたかもしれません。
しかし著者は、非常時には各人が目前の対応に追われているので冷静なコミュニケーションが難しいこと、機長と副操縦士の二人ではコミュニケーションを密にし情報を共有したところで解決策が出てくるとは限らないこと、そもそも解決までの時間的余裕がない、などを理由にCRMは決定的な解決策にはなり得ないと指摘。

CRMをめぐる航空会社の都合

指摘の根拠として、各航空会社がCRMを積極的に活用して十数年、CRM自身も何度ものバージョンアップを繰り返しているにもかかわらず、ヒューマンエラーが減らない航空業界の現実を突きつけます。それほど効果がないCRMを航空会社が採用するのは、根本的な解決策があっても金銭的に手をつけられないという事情があるからだ、と。
経営が成り立たなくなる決定的な解決策か......。なるほど、興味深い。

スタビライズド・アプローチ

着陸時における事故については、スタビライズド・アプローチという解決策を提示します。このスタビライズド・アプローチというのは、日本航空で安全調査部に在籍していた著者が中心となって提案した方法です。スタビライズド・アプローチは二つの要素からなります。

  • 一つは、最終進入前に航空機を安定させること。
  • 一つは、最終進入で所定の条件を満たさない、もしくは他のパイロットが「進入中止」を進言したら直ちに進入復行を行うこと。

なるほど......。これを実行していれば、広島空港での事故も起きなかったことでしょう。著者が自画自賛するのも無理はない安全策だと思います。まあ、これを厳密に行っていたら、コストがかかりすぎて会社は良い顔をしないでしょうが事故を起こされるより遙かにマシです。

LCC(ローコストキャリア)の問題点

LCC(格安航空会社)の問題点は、労働環境の改悪によるパイロットプロ意識の低下と操縦時の集中力の低下です。その弊害は、アメリカですでに起こっています。
アメリカでは1980年前後にかけて航空業界の規制緩和がおこなわれ多くのLCCが生まれました。低価格で航空機を利用できることから多くの人々に歓迎されましたが、その現場の安全管理は目を覆いたくなるものでした。

バリュージェット航空592便墜落事故(アメリカ)

結果、航空機事故の多くはLCCが占めることになります。事故の原因は様々ですが、コストカットによる時間制限や人員の欠乏が整備の質の低下を招きました。また、パイロットといえど薄給で働かされ、一日の大半を機上で過ごし仮眠もろくにとれないこともあったようです。(コルガン・エア3407便墜落事故)
現在は法律が整備されたとはいえ格安運賃を維持するためのコスト圧迫が強く、LCCは事故を起こしやすい環境であることは間違いないようです。

パイロットと宇宙線(放射線)

第六章では、乗員乗客があびる宇宙船について論じています。
現代の航空機は効率やコストの面から高高度を飛ぶこと。高高度を飛べば、地上よりも大量の宇宙線を浴びること。
航空機には宇宙線から乗員乗客を守るための術がないこと。宇宙線の元は太陽であり、太陽の活動が活発であれば宇宙線の量も多くなること。
一回のフライトで、一年分の放射線を浴びる可能性もあること。太陽でスーパーフレアが起きれば、航空機が空を飛べなくなるほどの放射線が降り注ぐこと。

航空機を利用されている方、くれぐれもご自愛を。

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