チェーザレ・ボルジア あるいは優雅なる冷酷 塩野七生 新潮社

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ルネッサンス時代の象徴

キリスト教世界の反感を冷ややかに無視しつつ、自分の野心を実現するため権謀術数をめぐらし軍事的勝利と政治的成功を収めながら、志半ばにして息絶えた男の物語。

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野心と能力と体力の持ち主

キリスト教圏で蛇蝎のごとく嫌われた男、チェーザレ・ボルジア。
父であり教皇であったアレクサンデル6世の庇護の元、キリスト教の枢機卿にまで上り詰めたチェーザレ・ボルジアは二十四歳の時、教会の権威の象徴である緋の衣を脱ぎ捨て一貴族として還俗する。
そもそも私生児だった彼が枢機卿になれたのは現教皇である父の後ろ盾があったからであり、逆に言えばこれ以上彼が権威の階段を登ることができないことを表していた。
己の才能を信じ、イタリア統一という野心に燃え、行動力を支える体力に恵まれた青年にはそれが我慢できなかった。聖職者から一貴族となった彼は諸外国を巻き込み、教皇領の統一へと歩み出す......。

情熱は夢を実現する力

この本を読んだ多くの人がチェーザレ・ボルジアについて冷徹で残酷な人といった印象を持ったことだろう。だが、私はどちらかというと何よりも情熱的な人であり冷徹や残酷さはその付属物にすぎないように思える。
確かに、実弟のホアンの暗殺に代表されるように彼の周りには不可解な死が付きまとう。自分の目的のためなら手段を選ばなかったチェーザレは、当時の人たちから悪魔のように恐れられた。またフランス王やヴェネチアなどの他国の王やイタリアの領主たちからも反感を持たれ冷酷な手腕は嫌われた。また、部下に反乱を起こされ、あわや破滅一歩手前まで追い詰められたりもしている。

冷徹な計算と感情のはざま

彼に欠けていたものは、待つことであり敵を作らない周到さだと思う。それは知性の領域だ。
成功した征服者は皆、部下の人心をつかむことに腐心しているし、何より一度に複数の敵を作らないように策謀する。チェーザレは効率を優先するあまり「人の心」をないがしろにしすぎたように思う。領民や軍の部隊長の心はつかんでいたようだが、その視野の狭さは情熱に浮かれて後先考えずに突き進む若者特有のもので、冷徹とは真逆のように思う。自分の才能に自信を持っていた彼には、年長の相談相手など必要なかったのかもしれない。

夢を持ち夢に生き夢に死す

もし彼が、あと十年間枢機卿を続けていたら歴史は違っていたことだろう。もしくは自分の息子や孫にイタリア統一の夢を託していたら、彼の夢は実現できていたかもしれません。彼の成功と破滅は、人並み外れた才能と行動力が必ずしも最善の結果をもたらすとは限らない証左ではないでしょうか。(逆にいえば、才能もないのにタイミングと運だけでそこそこの地位に上り詰めることも可能ということ。世の中って変なところで律儀だよね)
良くも悪くもすべてが性急すぎました。そして、彼にとっては最悪のタイミングで父である現教皇アレクサンデル6世が亡くなったことで、チェーザレは破滅への階段を一気に転がり落ちることになります。

神に嫌われた男

歴史にIFはありませんが、もし彼がマラリヤなどにかからず新教皇の元で辣腕を振るい続けていたらイタリア統一はなったのでしょうか?
個人的に、この人は早かれ遅かれ破滅の道を歩むのではないかと思います。切れ味は鋭いがそれ故に刃こぼれしやすい剣。しかし、そんな彼だからこそ、若者の情熱の象徴として多くの人々に支持されるのではないでしょうか。
自分の意志の元、太く短く生きるか、他者の操り人形となって細く長く生きるか選べるとして、貴方なら、どちらを選びますか?

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