高校生と大学一年生のための倫理学講義 藤野寛 ナカニシヤ出版

倫理学とは、すべきことについて考える学問

哲学の一分野である倫理学について、著者が自分の腑に落ちたと思えることだけを『哲学の言葉としての日本語』を用いながら、理解可能な日本語表現にこだわって書いた本。

大切なのは覚えることではなく考えること

この本は、著者が大学で教鞭を執る『高校で倫理の授業を受けたけどつまらなかった人、そもそも倫理の授業がなかった人のための倫理の講義』を元にしている。
まず、冒頭で「自由」と自由とは正反対の性質を持つ「不自由」と「必然性」を比較しながら、倫理学のイロハを解説する。すべきこと(当為)したいこと(欲 求)できること(能力)の三つの事柄のの差異は何か? したいけど、すべきではないことは何があるか? できるけど、すべきではないことに何があるか? 

なぜ今、すべきこと・すべきではないことを考える必要があるのか。倫理学を取り巻く現状を一つ一つ解説する。

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社会における「よい・わる」の種類と傾向

タイトルを見て「良いことや悪いことに種類も傾向もないだろ」と思う人もいるかと思います。著者は価値判断としての良し悪しと道徳判断としての良し悪しの二つを取り上げて、価値判断と道徳判断の違いを記述します。どういう価値基準を持って良い・悪いと判断しているのか。客観的か、主観的か。結果か過程か。理性的か否か。
また、著者は正確な事実認識によって冷静な価値評価が導かれるべきと力説し、価値評価によって事実認識が導かれる例が多々あること、願望が事実認識を歪めている実状を指摘します。

百の問いかけ

この本は良いか悪いかという倫理学の観点から百の質問を読者に投げかける本です。著者はまず、講義ごとに一つの命題を提示します。例をあげると、自由、ルール、弱さは悪か、カントの定言命法、良い人生、不幸、アイデンティティ、生き方、死、ジェンダーバイアス、愛、介護、生命倫理、優生思想、社会、多様化する価値、などです。

これらの命題について、まず著者の事実認識から語られ、次に現状についての著者の解釈・価値判断の提示されます。たとえば、アイデンティティが命題だった場合、アイデンティティは何であるのかという事実認識から始まり、アイデンティティの対立物として「分裂」とはどういう状態か、そこからさらに、心身の変化における「成長」と「一貫性」、アイデンティティの「同一」を保証する「記憶」について考察します。

一通りの現状認識が終わると、アイデンティティの価値評価に移ります。そもそもアイデンティティは良いか悪いか。個人のアイデンティティの価値評価が一通りすむと、個人のアイデンティティ以外のアイデンティティ、集合的アイデンティティについての解説。
そして講義の最後に『あなたはどう考えますか?』という無言の問いかけで講義が締められます。

良いか悪いか、人間の物差し(みつを)

倫理学について読みやすく分かりやすく書かれた本ですが、真面目に読んだら頭が疲れました。どんなに優しく書かれていても、この本は間違いなく学問としての倫理学、哲学の一分野を担う倫理学について書かれた本です。

しかし、生きるうえで、立派な社会人として認められるためには不可避な問いかけであることも確かです。まあ、この本を読んだからといって急いで答えを探す必要もないでしょう。頭の片隅にでもピンで留めておいけばいいと思います。

本の最後には、この本で使われた用語解説や参考文献一覧などもあり、倫理学を学ぶ人、倫理学に興味がある人にお勧めできる良書です。

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