キャラクター文化入門 暮沢剛巳 NTT出版

セカイと私、キミとボク(超兄貴のフレーズで)

キャラクターは日本のありとあらゆるところに存在し様々な場面で活躍している。ではキャラクターとは何か? 本書は漫画やアニメなどのオタク産業のキャラクターに文化的な面から光を当てた入門書です。本が好き!で興味を持った本。

キャラクターについての考察

大塚英志や東浩紀に代表される評論家の持論を数多く紹介し、現代のキャラクター論を総括します。取り 上げる内容は、キャラクターのリアリズム、キャラとキャラクターの違い、キャラクターの供給源としての四コママンガ、現代美術に持ち込まれたキャラクター など、入門書にふさわしい幅広い論点を解説しています。

美術評論家の経歴を持つ著者らしい切り口としては、村上隆についての考察にページを割いていることでしょう。
オタクに嫌われがちな村上隆ですが、間違いなく日本を代表する芸術家であることは確かです。村上が自らの作品にキャラクターを取り入れた経緯やキャラク ターについての村上自身の見解、現代アートにオタク文化を導入した村上が日本国内より海外での評価が高い理由について、著者は伊藤剛や東浩紀の論説を引用 して詳しく解説しています。

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セカイ系にみるキャラクターについての解説

セカイ系についての考察から始まる第二章では、セカイ系作品における親密圏について、泣きゲーの代表格である麻枝准作品における親密圏の変移、時代を反映する親密圏について論じています。

中間項(家族・学校・職場・地域・国家)が希薄な、ボクとキミが世界の行く末を左右する物語。この本ではセカイ系という概念の基点を『エヴァ』に求めます。その点は異論ありません。セカイ系はボーイミーツガールの一ジャンル。世界の行く末を左右する物語という一文に、うる星やつらの最後のエピソードを連想したのは自分だけじゃないと思いたい。

時代の変化やテクノロジーの進化によって、一キャラクターの親密圏は形と大きさを変える。また、何をテーマにするかによっても変わる。さらにキャラクターが作品中で成長するなどして意識や環境が変化することでも親密圏は変わる。

この本の肝はこの第二章で間違いないでしょう。著者は涼宮ハルヒの憂鬱の第二期エピソード「エンドレスエイト」を八回とも興味深く見ていたことを打ち明けるが、その理由が予想外でした。(ちなみに私は、登場人物の服装やセリフ、中の人の演技の揺れや演出の差異を楽しんでました)
著者はクロノスとアイオーンという定義を持ち出しますが、私には高尚すぎて理解に苦しみました。なので以後は文章を読んだ私なりの解釈です。

『エンドレスエイトのキーパーソンである長門有希の記憶と作品内における他のキャラクターの時間の差異は夏休み一万五千回分にも及ぶ。夏休み一万五千回分の記憶が、長門の親密圏を変化させ後の涼宮ハルヒの消失につながった。長門は俺の嫁』という著者の想いを汲んだのですが、スローリーディング的に間違ってはいないと思います。

オタク文化とヤンキー文化との共通点

三章ではオタク文化の考証から離れて、ヤンキー文化について論じていきます。といっても著者はヤンキー文化に詳しくないので、五十嵐太郎編『ヤンキー文化論序説』や難破功士『ヤンキー進化論』などを参考にしながら、ヤンキー文化におけるキャラやキャラクターについて、ヤンキーマンガの歴史、オタク文化とヤンキー文化の意外な共通点などを取り上げています。

第三章は、著者自身がヤンキーに興味がなかったと自白するだけあり、正直論調が弱いです。オタクは一般に内向的と決めてかかったり、ヤンキーの車好きとオタクの車好きを一緒くたにしたり、アニメやマンガを原作とするパチンコについての考察が物足りなかったり。

特にパチンコについての考察は、著者が『パチンコがアニメだらけになった理由(わけ)』を読んでいたら、また違った文面になっていたかもしれません。この本『キャラクター文化入門』の初版が2010年12月。安藤健二のルポタージュ本『パチンコがアニメだらけになった理由(わけ)』の初版が2011年1月。うーん、残念。

オタクの数だけある愛の形

聖地巡礼。2chでの最萌トーナメント。初音ミク。男の娘。ラブプラス。第四章では多様化するキャラクターの愛し方について紹介している。アニメやマンガの聖地巡礼の特殊性。それまでの音声合成ソフトと比べて初音ミクが決定的に異なる点。切々と語られる、こんなに可愛い子が女の子のはずがないという想い。

いやー、まさか「男の娘」にこれほどページを割くとは。現代の男の娘の高祖たる『ストップ! ひばりくん』の大空ひばりは当然あるものと予想できましたが、まさか『処女はお姉さまに恋してる』の宮小路瑞穂や『はぴねす』の渡良瀬準まで詳細な解説があるとは想定外でした。他にもマンガやラノベから代表的な男の娘キャラをピックアップしたり、男の娘をタイプ別に分類したりするなど、著者の並々ならぬ力の入れように『男の娘』への愛情を感じました。

キャラクターとのコミュニケーションが売りのラブプラスについての解説も、美少女ゲームの黎明期は『同級生』や『ときめきメモリアル』といったコミュニケーション志向ゲームだったこと、ノベルゲーム『雫』の登場によりコンテンツ志向ゲームへとムーブメントが変わったこと、コンテンツ志向ゲームであるノベルゲームが行き詰まっている現状を分析し、ラブプラスの進化に著者は新たな時代の流れを感じているようです。

愛し方を問うならば、憎み方も俎上にあげるべき

美術評論家という肩書きからは想像できないオタク知識に満ちた内容でした。もちろん、文化的に特筆すべきキャラクターすべてを網羅している訳ではありません。まえがきで著者が述べているように、キャラクター文化論の立場から一つの視座を提供することがこの本の目的です。一つの視座とは著者の目の届く範囲、すなわち著者の好奇心が刺激されるものです。興味・関心があるキャラクターと言い換えてもいい。

おわりにで言及されている「メディア芸術」という言葉の定義や「クールジャパン」という国策に対する賛否について論じた一文は目から鱗が落ちました。(井上雄彦が2008年メディア芸術新人賞・村上隆の作品はメディア芸術ではないなど)

この本は、キャラクター文化論概論と呼ぶには主観が混じりすぎていますが、オタク産業におけるキャラクター文化の入門書としてふさわしい内容と文章だと思います。

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