試行錯誤の文章教室―書き方・読み方・訳し方  井上 一馬 新潮社

心に残った記述を思わず読み返してしまう本

作家、翻訳家として活躍する著者が作品を執筆するうえで何を心掛けるべきかを、自らの考え・体験・著名人のエピソードを交え読みやすく分かりやすい文章でつづったエッセイ集。

柔らかな文体の文章は読みやすく分かりやすい。エッセイ集であることも読みやすさに一役買っている。とにかく面白い。学者さんが書いた文章読本の中には、読みづらいうえ読んでいてもまるで楽しくない本も多い。逆説的かもしれないが、読みづらく分かりづらい文章読本を書く人の小説を誰が買って読もうと思うだろうか?

柔らかな文体とエッセイ風の構成も読みやすさに一役買っている

本書の特徴の一つは、類書に比べ引用されるエピソードが多彩なことです。中でも効果的なのは文豪と呼ばれる著名人のエピソードを多く引用していること。紹 介されたエピソードが、著者の読みやすく分かりやすい文章に説得力を付加しているのです。ここは著者の狙い通り、といったところでしょうか。

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試行錯誤の文章教室―書き方・読み方・訳し方 (新潮選書)

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文章は水にかたどる

文章の基礎と一文の重みについて、何を(題材)どう書いたらいいか(切り口)について、読者との向き合い方とまとめを丁寧な語り口でつづっている。上善如水といえば日本酒を連想する人も多いかもしれませんが、僕はこの本を読んでこの言葉を思い出しました。

文章読本・文章指南本の中には、内容がどれだけ役に立っても読みづらいうえに全然面白くない本もありますが、この本は読みやすさと分かりやすさと面白さがそろった良書です。 目次を引いて気になったところから読むのもアリです。読み終えた後、自然と心に残った記述を読み返してしまうことでしょう。まさに「おいしい水」です。(注 上善水如は水を理想とする人生訓です)

苦い水もあれば、甘い水もある。もちろん酒も

個人的な見解ですが、文章は飲み物にたとえることができると思います。甘かったり、しょっぱかったり、苦かったり、辛かったり、飲むと酔ったりする。そんなイメージ。たとえれば、この本は『おいしい水』です。この際ですからぶっちゃけますけど、僕の理想形なんですよね、おいしい水のような文章って。だから評価が甘めかもしれません。お許し下さい。

追記 11/02/14

再読して気づきました。この本は読み手への気配りが行き届いていることに。個人的に入門書を読んで残念に思う瞬間として、

  1. 読者を見下している
  2. 著者が自己陶酔しいてる
  3. 入門者である読者への気配りがない
  4. 論拠が不十分もしくは矛盾している
  5. 何かと自分を持ち上げる
  6. 書き手としての分をわきまえていない

があるのですが、この本にはそれがまったくないのです。個性は参考になりませんが、技術や心構えは参考にすることができます。まさにこの本は、絶好の参考書です。

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