落語と歌舞伎 粋な仲 太田博 平凡社

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落語と歌舞伎が一般教養だった時代

落語と歌舞伎は共に江戸時代に勃興した文化であるためか、互いに影響を受けて大衆に広まった経緯があります。特に落語はその時々にはやった歌舞伎の演目を題材にした話を高座で打つことが多く、仮名手本忠臣蔵などの一世を風靡した演目になると300本以上の落語台本が残っているそうです。もちろん、歌舞伎の内容そのままではなく、パロディ的要素を含んだものが大半だそうですが。

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本歌を知っていてこそのパロディ

少しでも落語を聞いたことのある人なら覚えがあると思いますが、落語には歌舞伎好きや芝居狂いの人物が登場します。
その手の人物の役割は、歌舞伎や文楽の登場人物のセリフを諳んじたり、セリフの一部を替えるなどの一種のパロディ的要素で観客の笑いを誘うことです。つまり元ネタを知っていないと可笑しさ半減してしまうパロディ的噺を高座でするには、落語を見に来た客が元ネタである歌舞伎を知っていることが前提なのです。

元ネタをしらない客の前では、この手のネタは話せません。江戸・明治・大正までの落語を見に来る観客は元ネタである歌舞伎や文楽を知っていました。
和歌や俳句と同じく、芝居や落語が文人の一般教養だったのです。

落語家の必須科目である歌舞伎

この本の中には、以前演じられていた落語、今後話される機会が少なくなっていくであろう落語が数多く紹介されています。
たとえば、千本桜という言葉を知っている人は多いでしょうが落語の「初音の鼓」と聞いて義経千本桜を連想する人は稀でしょう。まあ、初音の鼓は元ネタを知らなくても面白い話なのですが、この本では落語とその元ネタである歌舞伎や文楽の作品を比較し庶民の楽しみとしての落語をクローズアップします。

江戸時代は歌舞伎や文楽が落語家の必須科目でした。歌舞伎や文楽を知っていなければ演じられない噺が多かったからです。落語を聞く観客は歌舞伎や文楽を知っていたので、生半可な知識で演じたら芸の低さを笑われたことでしょう。それほど落語と歌舞伎は密接な関係でした。

これからの落語家に求められるもの

今も昔も入門を許された噺家の卵がまず師匠から言われる言葉が「芝居を見て勉強しなさい」だそうです。この場合の芝居とはずばり歌舞伎のことであり、セリフ回し、間の取り方、言葉の切れや息継ぎ、仕草や表情など、落語を演じる上で参考になるものが歌舞伎の舞台には山ほどあるとか。ただし、それは歌舞伎や文楽を元ネタにした古典落語を話すうえでのことです。

今落語を聞きに来るお客の大半が歌舞伎や文楽に精通しているとは思えません。たとえ歌舞伎や文楽を元ネタにした噺を演じたところで、観客には可笑しさが伝わりにくい。その点、日常を題材にした漫才が戦後に流行するのも納得できます。日常を元ネタにしたものであれば、歌舞伎や文楽を知らなくても楽しめるからです。趣味の多様化と共に歌舞伎や文楽を知らない人が大半を占めるようになった今では、歌舞伎を元ネタに落語はどんどん演じる機会も減っていくことでしょう。

笑いとは共通の認識の上に成立する

現代の落語家は江戸時代の歌舞伎と文楽に変わるものを平成の世に見つけなければなりません。おそらくそれは一つではないはずで、ある意味、今の時代は落語家受難の時代といえます。
なぜなら、噺の元ネタから自分で探さなくてはいけないのですから。

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