演技と演出のレッスン 鴻上尚史 白水社

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俳優とはコミュニケーションツールである

俳優とは、どういった仕事か。演技とはどのような技術か。著者は俳優が役を演じる上で欠かせない「感じること」と「考えること」について解説し、18のレッスンを通して「どんなジャンルの演技でも最低限は演じられる実力」を身につけるためのトレーニング方法を紹介します。

俳優は技術職

俳優の仕事を「作者の言葉を伝える仕事」と定義し、作者の言葉を観客や視聴者に伝えるための技術にはどのようなものがあるかを、著者は分かりやすく解説します。
見る人を感動させる演技には必ず「考えること」と「感じること」の二つが両立している。なぜなら、考えるだけの演技では見る人を感動させることはできず、感じるだけの演技では周囲を無視した独りよがりの演技になってしまうからです。

もちろん、俳優によってその割合は違ってきますが、どちから一方だけということはありません。
そして、この矛盾する二つを使いこなすために有効なシステムとしてスタニスラフスキーシステムをあげ、同時に正しい発声を身につけることで演技の幅を広げることができると力説します。

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失業を前提とした職業

声優の神谷浩史さんがラジオ「さよなら絶望放送」でこんなことを言っていました。
『TVアニメの仕事ってさ、とどのつまり一クール(約三ヶ月)で失業するってことだからね』(要約しています)
声優を含めた俳優という職業の本質をとらえた至言だと思います。

著者も俳優という職業の特殊性に触れ、得手不得手はあっても仕事をえり好みしないことが失業期間を少なくする最善の方法であるとし、そのためにはどんなジャンルの演技でも最低限は演じられる実力もつことが必要と説きます。
観客が感動するのは「予想を裏切り、期待に応える演技」であり、間違っても「予想通りで、期待に応える演技」でも「予想を裏切り、期待も裏切る演技」ではない。

18のレッスン

演技とは与えられた状況(背景と役柄)と演出家の指示の元、自分の可能性を引き出すこと、と著者は説きます。四つのW、「もし」と「なぜ」を問う、動機(きっかけ)と目的(意図)を区別する、嘘くさい障害の罠、ただの動きと行動の違い、原因→行動→障害→結果(原因)の流れ、感情を引き出す感覚の記憶、共演者との演技のバランス、表現と癖の違い、声の五つの要素(大きさ・高さ・速さ、間、声色)で内面を表現する、台詞とサブ・テキストなどなど、レッスンを通して演技の基本を身につける方法を解説します。

舞台とTVの演技の違い

舞台とTVの演技の違いとは表現方法の違いであり、端的にいえば役者と観客および視聴者との距離の違いです。なので細かく分ければ、大劇場と小劇場では目指す表現方法も違ってくる。
もちろん、表現方法を選択するのは演出家の仕事であり俳優が自分で選べないこともあるが、違いを理解しておくことは俳優という仕事をする上で必須といっていい。その例として著者は、あるTVドラマの演技を例にあげて解説する。

直接的な記述はないが、挿絵から推測するに明石家さんまと大竹しのぶが共演したそのドラマでの、あるシーンにおける大竹しのぶの演技を著者は絶賛する。舞台とTVの演技の違いを明確にした一文は、俳優を志す人にはぜひ読んでほしい。大竹しのぶって、スゲー。

物語性と表現性

物語性とは俳優同士の関係を差します。表現性とは、俳優と観客または俳優とカメラの関係を差します。
大劇場と小劇場、そしてカメラでは、それぞれ物語性と表現性が違うのです。演劇は演技を大きくして、映像は演技を小さくするという誤解は、この違いを正しく認識していないことが原因です。

大小の違いはあれど、舞台では物語性も表現性も固定されていて演劇の途中で変えることは基本できません。(花道や客席で俳優が演技をするといった変化をつけることはできます)
しかし、カメラでは表現性をカメラワークで変えることができます。逆の言い方をすれば、俳優はショットの違い(アップ、バスト、ニー、フル、ロング)を意識して、演技を変える必要があるのです。
ただ、いろいろな制約から、撮影現場ではアップやバストショットが多用されている現状があり、映像向きの細やかな演技ができる人=演技が上手い人という認識が一般的なことも事実です。

頂点と裾野

一番でないとダメなんですか!? とある政治家はいいました。もちろん、技術の世界では、一番であることは重大で絶対的な意味を持ちます。
しかし、芸術の世界ではどうでしょう。著者は一番となって頂点を引き上げることの偉大性を認めた上で、裾野を広げること必要性をを力説します。頂点を引きあげることと裾野を広げることは等価値なのです。

著者は裾野を広げることの必要性を町のパレーボール教室を例にあげて解説していますが、野球でもサッカーでもピアノでも一流と呼ばれる人の多くは、身近なことがきっかけでその世界に足を踏み入れています。地域のスポーツ教室だったり近所のピアノ教室だったりと、いわば裾野の人たちが世界で通用する選手を生み出したのです

いつでも、どこでも、いうまでも

多くの人に演技の面白さを知ってほしい。舞台の楽しさを知ってほしい。著者はその文章でこの本を締めます。

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